世間はお盆ですね(でしたね?)
とりあえず今回はちょっとしんみりした話をUP。
いつもの如く捏造全開なので平気な方のみお進みください。
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草木も眠る丑三つ時。
暑さと湿気のために先程ようやく寝付いた久秀であったが、深い眠りに落ちる間もなく蹴り起こされた。
「起きろ」
「・・・・・」
「起きろ」
「・・・つい先刻床に入ったばかりなのだが?」
「余の知ったことではないわ。・・・支度をせい。出掛けるぞ」
「こんな夜更けにかね?そもそも私が行く必要は」
「フン。今でなければ、貴様とでなければ意味がない。・・・早くしろ」
「・・・全く、人使いの荒い主君を持ったものだな、私も」
空には満月、星明り。
だと言うのに、地はこんなにも暗い。
前を行く信長の持つ提灯の明かりを目印に、ただひたすら歩き続けた。
城下を抜けて山道に入ると、闇はいっそう濃くなる。
草を掻き分け、木の根を回避しつつ歩むその道には獣の通った跡すらない。
にも拘らず、信長は歩を緩めずに悠々と歩いていく。
―正に闇の王、といったところか―
そう呟いた久秀に突然声が掛けられた。
「着いたぞ」
到着したそこは山の頂上で、眼下に城と城下を見下ろすことが出来た。
近くに川でもあるのか、水のせせらぎが聞こえる。
だが何より目を引いたのは、
「石・・・?」
人の背丈の半分ほどの石柱が立てられていることだった。
表面には乱雑な字で、
「まさひで の ばか」
と刻まれていた。
「まさひで・・・?」
「何をしている。手伝え」
呼ばれて振り向くと、信長が手持ちの荷を解いているところだった。
中からは竹皮に包まれた握り飯と、線香。
「これはこれは・・・、泣く子も黙る魔王殿が墓参りかね?」
明日は雪でも降るのではないか、と揶揄したものの、返事はない。
見れば、集めた枯れ木に火をつけようと悪戦苦闘していた。
「・・・・・」
ふぅ、と一つ溜息をつき、枯れ木の山に向かって仕込み火薬を撒く。
ぱちり、と鳴らした指と共に、小さく火の手が上がった。
「これでいいかね?」
「・・・是非もない」
石柱の前に線香と握り飯を供え、ぽつりと信長が呟いた。
「・・・政秀は、」
「ん?」
「政秀は余の教育係だった男よ。『吉法師様の天下を見るのが楽しみ』と口癖のようにいっておったわ」
「・・・戦死かね?」
「余の行いを諌める為と言って腹を切りおった。・・・天下どころか家督相続すら見ずに、な」
「ふむ・・・で、この墓は?まさかこれが本物ではあるまい?」
「ここならば、余が手にしたもの全てが見える」
だから死者が現世にやってくるこの時期に、こちらへ呼び寄せるのだと。
そのための篝火なのだと。
「・・・久秀。貴様は行くな。余が歩む道、最後まで見届けよ」
そういった男は、そのときだけは『魔王』ではなく、やんちゃざかりの『吉法師』であったと。
何故だか、そう思った。
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ちょっとシリアスめに。
政秀は平手 政秀(ひらて まさひで)という人物です。詳しくはwikiで(オイ
信長少年時代もいつか書きたい・・・が、長くなりそう・・・
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