今年のネタは！今年の内に！！
程なくしてつまみを手に戻ってきた冬島と再び飲み始めるも、
頭の片隅では何故だかずっとあの小さな箱が気になっていた。
「……冬島さん」
「んー？」
「あんたここでこんなだらだらしてていいんですか」
「えっ何急に。報告書は出したし防衛任務は代わってもらったけど？」
「いやそうじゃなく」
「……鬼怒田さんには謝っといたぞ……」
「そういうことでもなく……というかそこは謝ってどうにかなるとこだったんですか……？」
「えーじゃあなんだ、心当たりないんだが？」
冬島は心底不思議そうに首を捻っている。
「……他に行かなきゃいけないところあるんじゃないですか？」
「というと？」
埒が明かない。出来れば避けたかったが直接切り出すことにした。
「……コートの右ポケット」
「っ！？」
目に見えて狼狽した。冬島もポーカーフェイスが苦手な方ではないはずだが
この慌てぶりから察するに相当に予想外だったらしい。
「渡す相手がいるんでしょう、俺のとこ――」
「ちょいちょいちょい、待って見た！？見たの！！？」
「見ました」
「何で！？」
「煙草探してたんで」
「マジか」
「マジです」
「マジかー……」
だから、と告げかけた言葉は再び遮られる。
「ってやべえ今何時だ！？」
慌てたように時間を確認する冬島につられて時計を見ればもうすぐ日付が変わろうとしていた。
一歩進んで、相手も同じ。
変わらないと思っていた。
実際に歳の差は変わらない。4年の差は埋まらない。
開かない代わりに、縮まりもしない。
はずだったのに。
「『春秋』。」
「……は、」
唐突に。突然に。真剣なトーンで名前を呼ばれる。
親以外に下の名前で呼ばれるなど久しくなかった。
それで反応が遅れただけだ、と上がりかける心拍数を宥めようとした瞬間。
「誕生日プレゼント。」
お陰様でサプライズ失敗だよ、と苦笑いと共に寄こされたのは、
ついさっきポケットから見つけたあの箱だった。
「……」
（待て、待て落ち着け。そもそもこれが指輪と決まったわけじゃない）
このサイズなら箱入りのルアーの可能性もある。
その場合先程までの己の邪推が大分恥ずかしいものになるが。
「おーいどうしたー？」
完全に動きを止めた東を訝しんでか、ひらひらと眼前で手を振られる。
「中。見てくれね？」
大丈夫。大丈夫だ。問題ない。
包装紙。無地の紙箱。予想通り。
濃紺のリングケースを確認した段階で再び手が止まる。
まだわからない。問題は中身だ。
何が出ても、「落胆しない覚悟はできている」。
意を決して蓋を開けば。
「……なん、で」
飾り気のない銀のリングが照明を反射して煌めいていた。
「タイム。ちょっとタイムで」
「おう」
状況に頭が追い付かない。深呼吸、一つ。
「一応確認しておきますけど。渡す相手間違ってません？」
「何で！？」
「これ指輪ですよね？」
「むしろそれ以外のなんなんだよ！？」
大丈夫かお前仕事し過ぎで壊れたか？などと言う声が遠い。
「いやちょっとここで指輪が出てくる展開がよく……」
まさかドッキリなのでは、という気すらしている。
そんな様子を（何故か楽しそうに）眺めていた冬島だったが、
「分かった。いや何を納得していないのかはわからんがあれだ、つけてみりゃわかるだろ」
「ちょ、待っ……！」
しょうがねえなあ、とリングを手に取って。
ご丁寧に、左の薬指に。
「な？」
まるで誂えたかのようにするりと収まったそれを、未だに信じられない。
「いやーやっぱトリガーメンテナンスの時に計測しといてよかったな」
「！？まさかあのメンテこの為に、」
「いやいやちゃんと正規の定期メンテだって。計測データを私的に流用しただけで」
「それはアウトなのでは」
「役得と言え。で、」
返事は？なんてこのタイミングで普通聞くだろうか。
「……ずるいですよこんなの……」
俺今年レゴバケツなんですけど。
それは普通に嬉しいから問題ない、なんて返される。
あぁ、もう。
結局この人には敵わない。
この差を埋めることはできないのだろう、けれど。
「まぁ、狙撃手は後方支援が得意ですから」
これからは貴方の後ろから。貴方と同じ方を向いて歩こう。
「……これからも。よろしくお願いしますね、『慎次さん』？」
「……………えっ」
不意打ち成功。すごくいい表情を見られた。
「ちょ、ハルちゃん今のもう一回！」
「嫌です」
「何で！？」
一歩ずつ。一歩ずつ。
二人で一緒に、歩いていく。
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